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zoom RSS ウツボラ(中村明日美子)考察・感想

<<   作成日時 : 2013/01/06 16:10   >>

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※後半にネタバレ解説あり!未読の方はご注意を。

「ウツボラ」全2巻(中村明日美子)
小説家・溝呂木の携帯にある日彼の読者である「藤乃朱」から着信がある。
しかしそれはなんと警察からであり、朱は自殺したと告げられる。
病院に着いた溝呂木は朱と同じ顔の少女に出会い…
朱の双子の妹を名乗る「三木桜」とは誰なのか。
「藤乃朱」という少女は本当に存在するのか。
小説「ウツボラ」を執筆したのは誰なのか。
耽美で官能的でミステリアスな作品です。

【感想】
一度読んで、もう一周して、ネットで考察を読んで、また読んで…
自分がある程度納得できる答えにたどり着くまでに4時間くらいかかりました。
理解するのに時間がかかる作品ですが、決して読みにくいわけではありません。
むしろグイグイ読ませられます。
一度読んだだけでは「真実」と「心情」を理解するのは至難の業ですが、
解釈を読者に委ねるたぐいの作品ではなく、きちんと答えは用意されています。
万人にオススメ出来る作品ではありませんが、上質な謎解き、ミステリアスな黒髪美少女、
憂いを帯びた初老の小説家などのキーワードにピンときた方は読んでみて損はないと思います。

<以下超ネタバレあり!>
既読者向けです。読む予定のある方はご注意を!

この作品の謎はいくつかありますが、大きく分けると次の4つではないでしょうか。
@自殺したのは誰なのか
A「ウツボラ」を書いたのは誰なのか
B「三木桜」の目的は何だったのか
C最後に「彼女」が身ごもっていたのは誰の子なのか

以下考察です。
まず二人の少女を区別します。
「秋山富士子」
溝呂木の熱烈なファン。
「藤乃朱」名義でファンレターを出したり「ウツボラ」を執筆した。
「三木桜」
生命保険会社の元OL。会社の金を横領して逃走中。
「三木桜」は偽名で、本名は「浅」から始まる名前。

次に時系列順に物語を追います。
・整形して逃亡中の三木桜が図書館で秋山富士子と知り合い、その後恋愛感情を抱くようになる。
・桜が富士子の書いた「ウツボラ」を投稿する。
・さえずり新春増刊号に読み切り「ウツボラ」掲載。12月号から連載開始。
・溝呂木が「ウツボラ」を盗作していると知った桜は「藤乃朱」を名乗って溝呂木に会う。
・桜は富士子に自分と同じ顔に整形させ、溝呂木に会わせる。
(溝呂木が「ウツボラの作者に会ったのは一度きり」と言ったのはこの時のこと)
・溝呂木が性的に不能だと知った富士子は、愛されることが不可能ならせめて溝呂木に自分のことを書いて欲しいと願い、自殺する。
・桜は富士子の自殺の理由を知るため、そしてウツボラを完成させるために溝呂木に再び近づく。
・次第に溝呂木に惹かれる桜だが、溝呂木に拒絶されさらに彼の「君は朱ではないんだね」という言葉に彼が「朱」の影を追っていたと感じ絶望する。(刑事の見ていた雑誌「さえずり」より時期は6月)
・絶望した桜は辻に盗作を暴露し、関係を結ぶ(「さえずり」より時期は9月)
・辻が溝呂木に盗作を問い詰め、その後失踪する。
・溝呂木が桜から電話を受け会いに行く(コヨミの「夜はまだ冷えるし…」という言葉から時期は翌年の4月頃)
・溝呂木は桜が「朱」であり、ファンレターやウツボラを書いた読者だと気付いた、と桜に告げる。
しかしこれは溝呂木の思い違い。溝呂木に「朱」と呼びかけられた桜は絶望し、「彼女(富士子)のことを書いてくださいね」と言い残して飛び降りた。
・病室で目覚めた桜に刑事は「秋山富士子さん」と語りかけるがこれは間違い。
刑事の差し入れの、富士子が好きだったというケーキはショートケーキだが、第1話で桜が注文したのはチーズケーキであることからわかる。
・溝呂木に呼ばれた桜はウツボラの完成原稿を読む。
溝呂木は執筆の過程で入れ替わりの全容を理解し、それを桜に告げる。
(理解しているため、ここでは「朱」とは呼ばない)
・朝チュンの後溝呂木自殺。
・エピローグの墓参り。桜は妊娠している。
(矢田部の「あと三月で一周忌か」から溝呂木の死から9ヶ月後とわかる)

さて、では謎解きに移ります。
@自殺したのは誰なのか
A「ウツボラ」を書いたのは誰なのか

もう簡単ですね。
どちらも溝呂木ファンの「秋山富士子」です。
ただ一点、「体温」につき矛盾が生じますが、P202の「彼女が私に熱を与えてくれた」が精神面だけでなく肉体にも変化をもたらしたと解釈するのが妥当かと思います。

B「三木桜」の目的は何だったのか

これは少し詳しくいきます。
まず、「なぜ桜は盗作を知った後溝呂木に近づき関係を持ったのか」です。
当時処女だった桜にとっては余程の動機がなければそうしようとは思わないはずです。
「あなたが会いたがっていた人に会ってみたかったの」という言葉から、桜は溝呂木に好意を持っていたわけではないということを前提に考えます。
桜は富士子に好意を寄せていた。しかし、富士子は溝呂木しか見ていないことを知っていた桜は、
富士子への歪んだ愛情と溝呂木への憎しみから、溝呂木を脅迫し無理やり関係を結ぼうとした。
そして、「私とキスしたら溝呂木先生と間接キスになるよ」的な理論で桜は富士子と結ばれることに成功した。
…こうではないでしょうか。
次に「富士子の自殺後、なぜ桜は溝呂木に近づいたか」です。
これは富士子の自殺の理由を知るため、そして溝呂木にウツボラの続きを書かせるためです。
と、ここでひとつ疑問が生じます。
ウツボラの投稿作は1巻P182で話のオチについて言及があることからそれ単体でストーリーが完結しているとわかり、それと比較されている読み切り版ウツボラ(盗作)も同様とわかります。
しかしそうなると、完成しているはずのウツボラの「第2回」の原稿を溝呂木が必死に探したのはどういうことなのでしょうか。
これは投稿作と連載版のウツボラが別物であり、朱にしか書けない事を示唆しています。
そして2巻のP82の桜の「私は先生のゴーストになって…」という言葉から朱=富士子(もしくは桜)は連載版の第1回のみを溝呂木に渡していたと推測できます。
2巻のP167の「これから」というのは、これから桜と入れ替わった富士子がゴーストライターとして毎月溝呂木に会えるようになる…という目論見だったのではないでしょうか。
桜が純粋に富士子の幸せを願ってそう仕向けたのか、それとも溝呂木が富士子を愛することが「物理的に」不可能であるからこそ送り出したのかは定かではありませんが…
(なお私は後者だと思いますw)
結局のところ、桜の願いは少々歪んだ愛憎混じりではあるけど「富士子の幸せ」であり、
富士子の願いは「溝呂木に愛されたい。それが無理なら彼の作品になりたい」だった。
「私と彼女の目指しているものは違ってた」とはこういうことだったのだと思います。

C最後に「彼女」が身ごもっていたのは誰の子なのか

私が最も悩んだのがこれです。
ネット上の考察ブログではあまり触れられず、
「辻の子」説と「溝呂木の子」説がひとつづつあるのみでした。
そこで私は頑張って読み込んで考えました。
結論は…溝呂木の子!
上の時系列を見て頂きたいのですが、まず溝呂木の死からラストの妊娠判明までが9ヶ月です。
そして桜と辻が関係を持ったのが9月、桜が飛び降りたのが翌年4月頃であることから、
辻の子だと仮定すると妊娠16ヶ月超という有り得ない状態になってしまいます。
作者が時期を判断するための情報をさり気なく各所に配置した意図を我々は受け取るべきです。
これでラストにひとつ救いができてすっきりしましたw

今回はついつい熱が入って、記事に半日くらいかかってしまいました(^_^;)
それだけ語ることのある魅力的な作品だったということで。
記事に対して別のご意見がある方がいらっしゃったらぜひ教えて頂きたいです(*´ω`*)


【評価】
☆☆☆☆+ 星4.5(加点1点)
加点内容は構成力。
さらりと読んでも面白いけど、読者に謎解きの余地を与え、それでいてちゃんと読みこめば上記のように答えが出るように設定された「難易度」。絶妙です。
はっきり言ってかなりの名作ですが、読むのにちょっと体力を使うことと、万人にはオススメしにくいことを考慮してこの評価です。



ウツボラ(1) (F×COMICS)
太田出版
中村 明日美子


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